2014年09月30日

小説感想:ログ・ホライズン8 雲雀たちの羽ばたき

Web小説から書籍化した、橙乃ままれが描く異世界冒険大河小説。
MMORPG<エルダー・テイル>の世界に取り込まれたプレイヤー達の、冒険と共に生き抜く日々を描く。
供贄一族との交渉を遂げたシロエが帰還したアキバの街から、今度は年少組が旅立つ。
マジックバッグの素材となるワイバーンの討伐を目的とした西への遠征。
しかし彼らの目的地であるヤマト西部では、<Plant hwyaden>(プラント・フロウデン)所属の<大地人>、ミズファの暗躍があった。
<大地人>の旅人・ダリエラ、帰還を望む<オデュッセイア騎士団>、そして彼方より来たる吸血鬼の女性。
シロエ達年長組の庇護無き地で、五十鈴たちが奮闘する。

現在第8巻、以下続刊。
「小説家になろう」にてWeb版も公開中
前巻までの感想はこちら
1〜2巻
3巻 ゲームの終わり【上】
4巻 ゲームの終わり【下】
5巻 アキバの街の日曜日
6巻 夜明けの迷い子
7巻 供贄の黄金

以下、ネタバレを含む感想

 CHAPTER.1で描かれるのは、アキバの街と五十鈴から見たギルド<記録の地平線>(ログ・ホライズン)の現状。
一応は小康状態を保ちながらも、クラスティの行方不明と言う問題を抱えた円卓会議。
しかしシロエやアイザックが心配しているのは<D.D.D>であり、アキバの代表者が不在と言う状態。
クラスティ自身に関しては『誰よりも生存能力が高そう』と全く心配せず。
描写されなかったが、ある意味でクラスティを一番心配して居そうなレイネシア姫はどう反応しているのか?
「アレは妖怪だから大丈夫」と意地を張っているのか、それとも素直に心配しているのか、次巻以降に期待だ。
 五十鈴から見たギルド<記録の地平線>(ログ・ホライズン)の現状はある意味新鮮である。
親友となったミノリやセララについては目新しいものは無い。
しかし、女子高生・五十鈴から見たトウヤ&ルンデルハウスの「男子は集団行動すると精神年齢が下がる」との評価は的確なだけに惨い。
多分本人たちはカッコイイと思っているのだから、口に出したらクリティカルヒットは確実だ。
年長組に関しては当然と云うべきかにゃん太班長の評価が高い。
大人で、ダンディで、紳士的で、胃袋まで掴まれたら、最強である。
直継とアカツキも第一印象はともかく、親しくするうちに打ち解けた。
初対面からフレンドリーだったのは、7巻で参加のてとら。
そして最後を飾るのは五十鈴から見たシロエの姿。
人は誰でも多面性を持っているとは言うが、五十鈴から見たシロエは極端である。
五十鈴自身が良く見る、ギルドホームで草臥れているシロエ。
街の冒険者たちから見た、陰謀家で腹黒のシロエ。
恋する乙女(ミノリ)から見た、頼りになる好青年のシロエ。
五十鈴が混乱しても彼女を責めることは出来ない。
そしてシロエと云う人間を五十鈴に解説したのは、やはりこの人、にゃん太班長である。
シロエを“長男病”と評し、五十鈴の理解を助けるのは流石は年の功と言わざるを得ない。

 CHAPTER.2では年少組のメンバーがヤマトの西・レッドストーン山地に向けて旅立つ。
目的は冒険者必須のアイテム魔法の鞄(マジック・バッグ)の素材となる<鋼尾翼竜>(ワイバーン)の討伐だ。
自分達の馬車、双子の馬とそれを呼ぶ召喚笛。
何もかもが初めての旅路は、ささやかな失敗さえもスパイスとなって五十鈴達を楽しませ、興奮させる。
トラブルの中で出会った<冒険者>ロエ2ともあっという間に打ち解け、彼女は一同の<姉>を自認するまでに至る。
 全力で旅を楽しむ年少組の面々は実に微笑ましい。
大きな括りでは1巻でのセララ救出行や前巻のシロエのオオウ行きも同じ“遠征”であるが、目的はもちろん、緊張感も得ている感情も全てが異なる。
前人未到級のシロエ達の遠征と、古参の<冒険者>からすれば“たかが”<魔法の鞄>の素材収集。
比較するのが間違いと言えばそれまでだが、本人達からすれば重要な目的の為にホームを離れる事に違いは無い。
そのうえで五十鈴たちがシロエ達と異なるのは“ゲーム時代に遠征を経験しているかどうか”では無いだろうか。
初めて行く場所でもゲーム時代に類似した経験があれば、多少なりとも感動は薄まる。
一方でミノリ達(セララとルンデルハウスは違うが)にとっては完全な初体験だ。
この差はやはり大きいだろう。
そして道中に出会った新キャラクター・ロエ2。
彼女の正体に関しては後に回すとして、サブ職が吸血鬼という境遇は実に不運だ。
日中活動が不便なのに、転職の為にはイコマまでの旅が必要とか嫌がらせのようなコンボだ。
だが<入れ替え転移>(キャスリング)と蝙蝠の従者召喚を駆使すればもう少し効率よく動けると思うのは気のせいだろうか?
それともキャスリングには制限が多いのか……
また余談ではあるが、シロエの講義に出たというクエストモンスター<人喰い鬼>(オーガ)の<オオエ>って酒呑童子ですか。
いや、オオエの鬼伝説は他にもありますけどね。
きっと、フルレイド級の導入時のカンストパーティが蹴散らされるようなオーバースペックだったんだろうな……

 CHAPTER.3からCHAPTER.4では楽しい旅路に暗雲の気配が立ち込める。
山道ですれ違った<冒険者>の一団、<オディッセイア騎士団>は不気味な雰囲気を纏っていた。
もう一つは、五十鈴達からすれば解らない読者にとってのモノ。
馬車のトラブルで同行者となった<大地人>の物書き、ダリエラである。
無論、その正体は彼女(・・)だ。
偶然の同名の人物でもないし、モデルになったオリジナルでもない。
更に五十鈴達の知らない脅威も存在する。
<Plant hwyaden>(プラント・フロウデン)所属の<大地人>・ミズファは<赤き夜>と称する作戦を実施し、その余波が五十鈴達に忍び寄る。
知らぬうちに爆弾を抱えた一行だが街についた事で、五十鈴を中心とした酒場ライブを実施。
アキバでも行っていたそれは好評を博し、終わった後も興奮冷めやらぬ五十鈴。
そんな彼女に突き付けられるのは自覚なく行っていた罪だ。
ルンデルハウスは語る、<大地人>には音楽は四二しか存在せず、新しい曲を作る事も出来ないと。
それは五十鈴を責めるものでは無かったが、彼女は自分がやってきたライブが罪だと定めた。
五十鈴の奏でる元の世界の音楽は、彼女の自覚の無い盗作行為(・・・・)であり、先人の手柄を盗む事だと。
そして、ルンデルハウスの語るアキバの<大地人>達の話は五十鈴自身「自分が歌った歌の意味をろくに考えもしていなかった」と気付かせる。
ルンデルハウスの言葉を受けた五十鈴は、一人で自分自身と向き合う。
だが、五十鈴の心の整理もつかぬうちに、一行は陰謀に飲み込まれる。
ミズファとその配下が駆る列車型の魔導機械と、そこから放たれる<闇精霊の従僕>(ナイトシェイド・サーバント)が無数の<鋼尾翼竜>を追い立て、それが街へと到達したのだ。
年長組代表として影ながら五十鈴達を見守っていたにゃん太は鋼鉄車両に降り立ち、その目的を問い質すが、対峙した意外な相手――元ブリガンティアのロンダークは真面に会話に応じない。
依頼されたから護衛しているだけ、鋼鉄車両が戦火を撒こうとも俺は知らない。
同意無くこの世界に呼ばれ帰れない――人道を無視されたので、俺も人道を無視する。
力で排除することは出来ても、絶望を雪ぐ事の出来ない相手に、にゃん太は苦しむ。
だが、二人の乱入者によってロンダークとの対峙は中断される。
一人はにゃん太とロンダークの戦いに割り込んだ<大地人>の女軍人・ミズファ。
もう一人はそのミズファとにゃん太の戦いを止めた、かつての<茶会>(ティーパーティー)の一員・カズ彦。
濡葉からの撤退命令をミズファに伝え、カズ彦は去る。
この結末がまだマシなのだと言い残し。
 唐突に五十鈴に訪れた試練は日本で暮らす一般的な女子高生には重すぎるものだ。
ただ好きで音楽を奏でていたら、それが盗作となってしまった事。
同時にそれが<大地人>から重すぎる感動と感謝を引き出してしまった事。
逃げ出さないだけでも立派と云うしかない。
そこにはルンデルハウスの存在もあるのだろうが、やはり音楽そのものへの想いの強さ在っての事だろう。
逆に“弱さ”を露わにしたのがロンダークと、そしてにゃん太の二人だ。
世界への理不尽を訴えるロンダークと、彼を救う事もとめる(ころす)事も出来ないにゃん太。
特ににゃん太班長は今まで常に余裕を持っていただけに、衝撃が大きい。
年長者としてロンダークを救えず、そして彼の抱える絶望はシロエ達をも襲うかもしれないモノである事が、年長者としてギルドの若者たちを見守る彼を苦しめるのだろう。
そして、同じく責任感の強さ故に苦しむのがカズ彦だ。
<Plant hwyaden>(プラント・フロウデン)を健常化しようと抑える青年は、その為に心に傷を作り続ける。
だが彼に関しては事態を打開するのでは無く、被害を抑える方向に思考が向いてしまっているのがネックではないだろうか?
元<茶会>攻撃指揮官でありながら驚異の忍耐力と称賛する事も出来るが、援軍の当てのない籠城は緩やかな自殺だ。
無論、何も行動を起こさない者や<Plant hwyaden>に疑問さえ持っていない者に比べれば雲泥の差ではある。
苦労人気質なあたり元<茶会>参謀のシロエとは息の合う人間だったかもしれない。

 CHAPTER.5ではトウヤが、ミノリが、五十鈴がその思いを叫ぶ。
<鋼尾翼竜>と<オディッセイア>の死闘は街の中に雪崩れ込み、突撃と死と蘇生を繰り返す死にたがり(オディッセイア)にトウヤは自らの想いをぶつける。
戦いの最中にロエ2との対話を行うミノリは、<航界種>としての言葉を投げかけるロエ2に、“姉と弟妹”という自分たちの関係を定める。
そして五十鈴は歌い、世界の承認を受け、四十三番目の歌は魔法となる。
多くの命を失いながらも街は守られ、旅の目的だった<鋼尾翼竜>から得られる<魔法の鞄>の素材も手に入れた。
目的を遂げた事と、イレギュラーの数々によって五十鈴達はアキバへの帰路に就く。
幾つかの戦果と、ロエ2に託された手紙を手にして。
 <料理人>が“味のある料理”を、<生産職>の多くが様々な新アイテムを生み出したように、<吟遊詩人>(バード)である五十鈴が新たな歌を生み出せば、それに魔法の力が宿るのは必然と言える。
しかし、実際にはそう簡単ではないのだろう。
アキバの<冒険者>の中に一人や二人プロの音楽家がいてもおかしくは無いが、それでも五十鈴の歌が“四十三番目”という事は、それだけ世界(セルデシア)の承認を受けるのは難しいのだろう。
効果こそ小さなものだが、彼女の成したことは大きな括りではシロエの<契約魔法>と同じことなのだから。
濡葉の言うとおりシロエが与える影響なのか、本人の資質なのか、年少組であろうともギルド<記録の地平線>(ログ・ホライズン)は規格外である。
そして見せ場を飾ったもう一人はやはりロエ2だろう。
明言こそされていないが、キャラクー自体は間違いなく白鐘恵(シロエ)のテストサーバー用のセカンドキャラだろう。そこまでは良い、問題なのは中身(・・)だ。
シロエが居る以上、白鐘恵という事は在り得ない。
だが地球での記憶を持っている以上、セルデシアで発生した魂魄とも考えにくい。
“兄的存在”と入れ替わったというが、現状当てはまりそうな人物はクラスティのみ。
しかしクラスティには妹が居たと言うがそれがロエ2と繋がるとは思えない。
ミノリとの会話での謎だらけの発言を考えればシロエ達と同じ地球出身の存在ではないが、地球の記憶は持っている。
やはり鍵は<共感子>(エンパシオム)なる存在だろうか?
その正体が蘇生時に<冒険者>が支払う<記憶>なら、それを得た存在、或いはその集合体が<航界種>――ロエ2の正体なのだろうか?
7巻でのシロエの死によって得られた<記憶>がトリガーとなってロエ2が覚醒、さらに<冒険者>の中でも自覚症状が出るぐらいに<死>を経験している――<記憶>を支払っているクラスティの事をロエ2は兄と称した。
現時点ではこの程度が予想、というか妄想の限界だろうか?
そして<航界種>が世界を航る種族、と考えるなら、彼等こそが<大災害>――三度目の世界級魔法を行った存在の可能性もあり、地球帰還の鍵となるのは間違いないだろう。

 数々の謎を残した第8巻、だがその謎はひとまず置いて、物語はまた別の者達に移る。
シロエに数々の難題を丸投げした<放蕩者の茶会>筆頭・カナミが満を持しての登場。
WEB版の白竜山脈がベースとなるであろう第九巻は今冬発売との事。
アニメ第二期もあるので大人の事情的に延期は考えにくい。
安心してアニメ版を見ながら待ちたい。
posted by 蒼炎刃風 at 23:59| Comment(0) | 小説感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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