2015年10月01日

小説感想:ログ・ホライズン10 ノウアスフィアの開墾

Web小説から書籍化した、橙乃ままれが描く異世界冒険大河小説。
MMORPG<エルダー・テイル>の世界に取り込まれたプレイヤー達の、冒険と共に生き抜く日々を描く。
様々な問題に頭を悩ませるシロエの元に届くロエ2からの手紙。
彼に決断を迫る“帰還への可能性”と“大地人の救命”という大きすぎる選択。
<典災>(ジーニアス)との大規模戦闘(レイド)の中で、シロエは迷い、決断を迫られる。

現在第10巻、以下続刊。
「小説家になろう」にてWeb版も公開中
前巻までの感想はこちら
1〜2巻
3巻 ゲームの終わり【上】
4巻 ゲームの終わり【下】
5巻 アキバの街の日曜日
6巻 夜明けの迷い子
7巻 供贄の黄金
8巻 雲雀たちの羽ばたき
9巻 カナミ、ゴー! イースト!

以下、ネタバレを含むあらすじ及び感想




 最初に描かれるのは、ロエ2からの手紙と一年弱という時間が冒険者とセルデシアにもたらした影響に悩まされるシロエだ。
ミノリに託した手紙によって<航海種>(トラベラー)を名乗るロエ2。
クラスティの不在によって徐々に組織そのものが疲労しつつある<D.D.D>
<Plant hwyaden>(プラント・フロウデン)という戦力を得た事で<自由都市同盟イースタル>との戦争に向け胎動する<神聖皇国ウェストランデ>
目撃証言の増える典災(ジーニアス)と呼ばれる存在
そしてセルデシアという世界に馴染めなかった冒険者
正直、<円卓会議>の参謀という立場を考慮してもシロエ一人の手には余る問題ばかりだ。
無論、問題に直面しているのはシロエだけでは無い。
ロンダークと直接対峙したにゃん太班長。
主不在の<D.D.D>にて奮闘するリーゼ。
当事者だけにそれぞれの問題についてはシロエ以上に悩んでいる。
ただし、悪い事ばかりでは無い。
例えばマイハマに滞在しているアイザックとマイハマ次期領主の少年・イセルスの交流だ。
色々な面で正反対でありながら、子犬の様に懐くイセルスと何だかんだで面倒を見るアイザックはいいコンビである。
 8巻での事件から引き継がれた問題と、それ以前からゆっくりと進行していた問題。
手紙以外は新たに事件が起こった訳では無いだけに、“敵が現れた、よし倒そう”というようにはいかないだけに厄介だ。
個人的には特に問題なのは<神聖皇国ウェストランデ>だと思われる。
なにしろ事が戦争、他とはスケールが違う。
加えて、冒険者という要素は事態を加速させる触媒ではあっても根本的な原因が大地人側に或るのが大きい。
<神聖皇国ウェストランデ>は<Plant hwyaden>でなくても戦力さえ整えば<自由都市同盟イースタル>と開戦したのは間違いない。
そんな問題の中でも一服の清涼剤となったのが意外な人物。
<第八商店街>のカラシンだ。
彼の漏らした人物評価には納得と同時に失笑を禁じ得ない。
“五割凡人四割秀才一割やけくそ”の腹ぐろ眼鏡(シロエ)
“十割鬼なほう”のスーパー眼鏡(クラスティ)
クラスティの扱いも酷いが、シロエの“一割やけくそ”がツボにはまった。
<天秤祭>の甘味地獄とか、ソウジロウ親衛隊の巡回とか、カナミに振り回されてる時とかですね。
――これも女難というのだろうか?

 次に描かれたのは<ホネスティ>のアインスが抱える焦燥だ。
シロエの活躍で莫大なゾーン維持費から解放された<円卓会議>だが、それ故に大手ギルド――高レベル冒険者にかかっていた負担が減り、富の格差が露わになる。
アインスの危機感は理解はされても共感を得ることは出来ず、提案した対処案も受け入れられない。
アインスが無力感に苛まれる一方で、希望を見つける者や決断を下す者もいる。
にゃん太班長はセララの産まれ直そうとする姿に救われ、感動を得る。
シロエは抱え込まずに相談するという、当たり前でありながら難しい事を過日の経験で学んでいる。
かくて直継曰く、ログホラ年長会議は開催される。
そこで明かされるのはロエ2からの手紙に記された<航海種>(トラベラー)<採取者>(ジーニアス)、そして月との交信の示唆。
情報を得た事で明らかになる事、逆に深まる謎。
更なる情報を得る為、シロエ達は月との交信を目指し動き出す。
そして、意志を示すのは年長組だけでは無い。
ルンデルハウスとトウヤ、少年たちも自らの意思を定める。
“帰る”そしてもう一度来ると静かに宣言するトウヤと、それを見届け協力を自らに誓うルンデルハウス。
少年達は男だからこその繋がりを示す。
 アインスの焦燥は理解できなくはないが、いくらなんでも対処方が悪すぎると感じた。
高レベル冒険者の反感も大きな問題ではあるが、そもそも対処法になっていないのではないだろうか?
仮にレシピや口伝の情報、金貨を分配しても、それはその瞬間だけだ。
既存のレシピを与えられても新たなレシピを生み出すノウハウが無ければ、瞬く間に“流れ”に取り残される。
金貨を与えられても、根本的な収入の桁が違えば、再び差が開くのは当然だ。
それを実行するぐらいなら、希望者を<ホネスティ>でパワーレベリングして90レベルに引き上げる方が、まだ効果的ではないだろうか?
もちろん、パワーレベリングではプレイヤースキルや装備に難が出るが、金貨やレシピをばら撒くだけよりは良い筈だ。
ログホラ年長会議では直継が意外な活躍と言える。
<航海種>と<採取者>についても大雑把な理解ながらアカツキやてとらに解説をして見せたし、手紙の“説明不足”に関しても感覚(本能?)だけで鋭い意見を挙げる。
理解力・読解力において、直継>アカツキ・てとらが証明された瞬間である。
これで“おぱんつ”発言さえなければ……

 Chapter3ではアイザックに懐いたマイハマの幼君・イセルスに危機が迫る。
マイハマでの穏やか(?)な日々を過ごすアイザックはイセルスやその祖父にして現領主セルジアッドと交流を深める。
だがアイザックが副官であるレザリックやアキバとマイハマを行き来するカラシンに振り回される裏で、陰謀を廻らす者が居た。
イセルスが社交界で後継者として指名される誕生パーティにて、彼らは動く。
送り込まれたのは暗殺者の一団、しかしロデ研製の奇襲警戒アイテムによってその存在は露見し、黒剣によって先手を奪われる。
パーティ出席者という護衛対象が居た事で一蹴される事こそなかったが、大地人と冒険者――それも大規模戦闘ギルドの黒剣では勝敗は火を見るより明らかだ。
アイザックが敵の主目的であるイセルスを会場から連れだした事で戦力は分断、確固撃破される事となった。
 アイザックを中心とした交流は彼の意外(?)な一面が見れて実に笑え――もとい、興味深い。
イセルスに懐かれる様は古い漫画のヤンキーと子犬のようだし、レザリックやカラシンに遊ばれる姿は黒剣ギルマスの面子が丸潰れである。
また、カラシンについては此方でも大活躍。
人間関係の潤滑油としてはデクリメント随一なんじゃないだろうか――と言いたい処だが正直他が駄目過ぎるだけだった。
腹黒とか八割ゴリラとか十割鬼なスーパー眼鏡とか……
潤滑油を担えるのはマリエール位じゃないだろうか?
そして、暗殺未遂については、ほぼ予想通りの蹂躙戦。
大地人の暗殺者じゃ、冒険者――それも最強の一角であるアイザックの相手にならないのは自明の理。
アイザックがヘイトコントロールスキルを使う前なら、アイザックを無視してイセルスを狙う手で勝機があったんだが……
彼等には御愁傷様としか言いようがない。

 Chapter4では常蛾の眠りが大地人・冒険者の区別なくヤマト全土に襲い掛かる。
脱魂病と名付けられた昏睡症状は不死である冒険者でさえ犠牲となり、アキバにも動揺が広がる。
大地人を見捨ててでも地球への帰還の可能性を求めるべきという意見を挙げるアインス。
しかし彼らを嘲笑うかのように、<典災>が居座ったのは月への通信設備のあるシブヤ。
レイドゾーンと化したシブヤ放送局に挑む、シロエの指揮する寄せ集めのフルレイド。
だが、戦闘によって帰還の手掛りを失うという事実がシロエの指揮を鈍らせる。
もたらされた結果はレイド壊滅による撤退。
打ちひしがれるシロエだが、ヘンリエッタの叱咤とミノリ達の支えで、“両方を手にする”という強欲な“決断”を下す。
 <典災>による攻撃で昏睡者という明確な被害を受け、今までが不死だった冒険者が動揺するのは盛り上がりという意味では待ちかねたとも言える展開。
記憶の欠損があるとはいえ、限りなくノーリスクに近いのと“リタイア”が在り得るのでは盛り上がりが違うだろう。
そしてシロエの迷いも必然だ。
増え続ける大勢の昏睡者と帰還の可能性を天秤に掛けるなど、Chapter1の諸問題以上に個人で決断を背負えるレベルでは無い。
リーゼの“不甲斐ない参謀”に対する苛立ちは正当ではあるが、状況を考慮すれば同情の余地は残るモノである。
もっとも、それもカラシン曰くの“ヤケクソ”モードに入ると大胆極まりない決断に至る訳ですが。

 最終章ではシロエのレイド指揮と<全力管制戦闘>(フルコントロールエンカウント)が炸裂する。
魔法攻撃職であるシロエを囮とした<引き廻し>(カウンティング)にビルを飛び下りるという強引な戦場の移動。
そして<D.D.D>のレイド指揮官であるリーゼでさえ意図を読み切れない、それでいて効果的な戦闘指示。
“決断”に至ったシロエは存分に自身とレイドメンバーの能力を生かし、<典災>タクタリンを撃破し、シブヤの放送設備を確保する。
だが、そこで大団円とは行かず、通信設備から聞こえる予想外極まりない懐かしい声。
<茶会>のリーダーにしてシロエとカズ彦の頭痛の源、カナミである。
シロエの帰還への決断をあっさりと飛び越えた“両世界を行き来出来るようにする”という常識外の望みを挙げるカナミは場を混乱させるだけ混乱させて通信を終えのだった。
 火付きの悪い主人公であるシロエも、逆に言えば火がつけばやってくれる男である。
<引き廻し>は無茶ではあっても効果的だし、<全力管制戦闘>は相変わらず脳構造を疑うレベルだ。
素の能力でリーゼの<口伝>を完全に凌駕しているのだから反則だ。
逆に言うとシロエが<契約魔法>以外の戦闘用の<口伝>を編み出したらどうなるのか、楽しみなような恐ろしいような複雑な気分だ。
なお、一巻で見せたにゃん太班長との<ソーンバインド・ホステージ>の連携をアカツキと見せたのもクライマックスに相応しい。
主人公とヒロインの連携でトドメ、王道ではあるが実に良いものだ。
一方で“これは酷い”という他ないのがカナミの通信だ。
まさにKRの“彼女は<茶会>をリーダーとして混乱させていた”という言葉の意味の解る一幕だ。
あの直嗣が手で顔を覆い、にゃん太班長でさえ視線を逸らす。
慣れていないリーゼには刺激が強すぎる相手だろう。

 帰還への情報に<航海種>と<典災>、物語の大きく動き始めた今巻、大いに満足の行くものだった。
ただし、どうしても此処だけは文句を言いたいのが、ミノリの件だ。
彼女がシロエに向ける感情が恋ではなかった事と、その自覚タイミングだ。
百歩譲って恋愛感情でなかったのは良い。
しかし、それを自覚するのに失恋イベントや告白(未遂)イベント無し。
ミノリの内心描写だけで読者に明かすのはどうかとおもう。
学園ラブコメなら、これら一連のイベントだけで一〜二冊はかける重大事件だ。
シリーズ完結に向けて色々な部分を終わりに向かわせなければ行けないのかもしれないが、もう少し何とかならなかったのだろうか?
恋愛方面以外も含め以降の展開に期待し次巻を待ちたい。
posted by 蒼炎刃風 at 00:00| Comment(0) | 小説感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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